初めての戦争


 天高く輝く太陽と、その熱い日差しの下、太陽よりも尚強く輝く光を放つ物質、大クリスタル。
 その大クリスタルの周囲を囲む2つの影。
「ふぅ……今日も絶好の採掘日和だよな」
「何呑気な言っているんですか、隊長! 今は、戦争中なんですよ!」
 どっかりと胡坐を組み、その場に座り込む大柄の男、マグナの硬い背中を、小柄な少女、イチカが顔を真っ赤にして蹴り付けた。
 中央大陸「エスセティア」、そこは対立する5つの国に囲まれた緩衝地帯であり、日夜国家の威信を掛けた激しい領土争いが行われる戦場でもある。
「あん、何怒ってんだ? イチカ」
「怒りもしますよ。私、今日が初めての戦場なんですよ!! なのに、なんでこんな所にいるんですか!」
 手を大きく広げ、『こんな所』を強調する。
 高い山の中に作られた広大な盆地であるクローディア水源、イチカ達がいるのは、その盆地の北側に位置する高い丘の上だった。
「ここってアレですよね。俗に言う僻地って奴じゃないんですか!」
「おぉ〜よく勉強してるじゃねぇか、関心関心」
「子ども扱いしないで下さい!」
 頭を撫でようと伸ばしたマグナの手を、ヒートアップし続けるイチカが払いのける。
「あのな……イチカよ。お前、何か勘違いしてんじゃねぇか? 俺達の職業が何か言えるか?」
 戦場で戦う兵士には、大きく分けて5つの職業が存在する。
 大剣や両手斧、片手剣を扱い強力な攻撃スキルを持つ前線の要、ウォリアー。
 弓や銃、短剣を扱い多様な妨害スキルを持つ、スカウト。
 炎や雷、氷の魔術を扱う後衛、ソーサラー。
 刺突剣を扱う、近距離線のスペシャリスト、フェンサー。
 手甲を扱う、対建築物のスペシャリスト、セスタス。
 イチカやマグナも兵士である以上、この一長一短の特徴を持つ5つの職業のいずれかに属している。
「そんなのセスタスに決まってるじゃないですか。私、今日のために新しい手甲まで用意したんですよ」
 じゃじゃ〜んと効果音を口ずさみながら、イチカがセスタスの証とも言える、真新しい手甲を背中のリュックから取り出す。
「……おい、新しい手甲って、なんで装備してねぇんだよ」
「えぇ〜! 装備するって、傷ついたらどうするんですか! 高かったんですよ、これ」
「どっちが呑気なんだよ」
 育て方を間違えたかと本気で頭を抱えながらも、「こほんっ」と咳払いし、マグナが真面目な顔を作る。
「あのな……イチカ。俺の言うことをよ〜く、聞けよ。俺達セスタスはな……」
「はい、何ですか?」
「……裏方が基本だ」
「もう、今さら何言ってるんですか、そんなの当たり前じゃないですか! そんなことより、早く前線に行きましょうよ」
「…………」
 沈黙。
 天を見上げ絶句するマグナ、そんなマグナを無言で睨み付けるイチカ。
 長く虚しい沈黙を、慌ただしい足音が打ち砕く、
「親方! オベ建設完了しましたっス……って、あれ? 何やってんすか?」
 短い金髪を逆立てた若い男――ラドラスを、マグナが手招きし、目の前に座らせる。
「よぉ、よく戻って来たな、ラドラス。お前が一番乗りだ。で、1つ聞きたいんだが……イチカの教育係って誰だったか覚えてるか?」
「そんなの決まってるじゃないっスか。イチカには、兄であるこの俺がしっかりばっちり必要なことを伝授したっスよ」
 自分の台詞にマグナの手甲が光ったことに気付いているのかいないのか、力強く胸を自分の胸を叩くラドラス。
「だよな〜で、だ……当然、裏方が何かってことも、ちゃんと説明してんだよな?」
「はい? 裏方って……何スか?」
 再度の沈黙。
「なぁ、イチカ。お前裏方って知ってるか?」
「えぇ〜知るわけないじゃない、ていうかお兄ちゃん。隊長、なんか光ってるけど怒ってるんじゃない?」
「あれっ、親方大丈夫ッスか? 光ってるだけじゃなくて、震えてるッスよ。なんか、まるで、ルプススタイルかけて、ゲイザースマッシュのタメMAXみたいになってるっスけど……」
「まったく持ってその通りだよ、このバカ兄妹が!!」
 咆哮と閃光、溜めに溜められた力が爆発となって炸裂し、「ぬわはぁぁぁッスよ〜」、「きゃぁぁ!!」バカ2人をのみ込み、吹き飛ばした。
「隊長〜何か今、光ってましたけど……何かあったんですか?」
「おう、お前らも戻って来たか、さっそくで悪いが、下に落ちたバカ2人を拾って来い」


「うぅ……痛いよぉ……」
「酷い目に遭ったッスよ……」
 頭に大きなタンコブを付けたまま、正座させられるイチカとラドラス。
「はいはい、2人とも文句言わないの。だいたいね、セスタスなのに裏方を知らないなんて怒られて当然じゃない」
「だな、イチカちゃんはまだいいとして、なんでお前まで知らないんだよ。おかげで親方があの調子じゃねぇか」
 4人に背を向け横になるマグナを親指で差しながら、先ほど戻って来た2人組の1人、シャクナがため息を吐く。
 そんなしらけきった辺りの雰囲気を無視し、イチカが猛然と立ち上がり、最後の1人セリニャに直訴を始める。
「あのセリニャさん。その裏方ってなんなんですか? 私、早く前線に出て戦ってみたいんですけど!」
「どうどうどう……え〜とね、イチカちゃん。大事なお話をするから、よ〜く聞いてね。基本的に裏方って言うのは、前線には出ないで、クリスタルを採掘したり、建築や召喚を担当したりする人のことを言うのよ」
「へぇ〜そうなんだ……」
 一拍、
「えっ……えええぇぇ!!!!」
 戦場に一際大きな叫びが響き渡った。


 最強最速最高採掘部隊、『ディグクラッシャー』、隊長であるマグナを始め、部隊員全てがセスタスという、数ある部隊の中でも非常に珍しい構成の部隊である。
 戦場に置ける彼らの主な仕事は、その名の通りクリスタルの採掘。
 そして、このグローディア水源における戦争でも、初動の仕事であるオベリスクの建築を終え、彼ら本来の仕事であるクリスタルの採掘を行っているのだった。
「イチカ、クリスタルッスよ。受け取るッス」
「……はい」
「イチカちゃん。こっちもお願い」
「…………わかりました」
(何やってるんだろう……私、お兄ちゃんみたいに、デッドランカーNo1って呼ばれるような立派なセスタスになろうって決めたのに……)
 仲間から渡されるクリスタルを受け取りながらも、地面に三角を描き続けるイチカ。
「ほっといていいんですか、親方。なんかイチカちゃん、思いっきり拗ねてるみたいですけど」
「なら、シャクナ。お前、イチカを前線に連れてったらどうなるかわかるか? 一瞬で蒸発するのがオチだぞ?」
「そりゃまあそうですけど……最低限、裏方の重要性くらいは、ちゃんと教えてあげた方がいいんじゃないですか? さしつかえないようでしたら、この不詳シャクナがその役目を担当いたしますよ」
「勝手にしろ」
 言うが早いか、妹命のラドラスと場所を交代しイチカに話しかける。
 これまで何度かイチカの教育係を買って出たことがあったが、ラドラスがいるためその機会が訪れることはなかった。そのため、今回がシャクナにとっては、イチカと話す絶好の機会だった。
「イ〜チカちゃん。ちょっと、いいかな〜?」
「あっ、シャクナさん……何ですか」
 シャクナの声に一瞬笑顔で反応するも、すぐに元の拗ねた顔に戻る。 
「ちょっと、イチカちゃんが裏方の仕事を誤解してるんじゃないかなって思ってね」
「誤解なんてしてないですよ……後方の安全な場所で、クリスタルを集めるだけの仕事なんですよね……」
「イチカちゃん、アレが何か分かるかな?」
 遠く崖の傍にそびえ立つ塔を指さしながら、シャクナが問い掛ける。
「あれは……オベリスクですよね?」
「正解、それじゃあ、オベリスクの役割はわかるかな?」
 正解の言葉にほっとしたのも束の間、シャクナの次の質問に、視線を宙にさ迷わせる。
「えっ……え〜と……目印……とかですか?」
「目印にならないこともないけど……外れ。あれは周囲のエネルギーを吸い取り、敵の城を攻撃する兵器なのさ」
「敵の城を……ですか?」
 塔の戦闘から打ち出された砲弾が敵の城に飛んでいく姿を想像しながらも、実感がわかず、あいまいな返事を返す。
(それに敵の城を攻撃するって、どういう意味だろう……敵の兵隊さん達には影響ないってことだよな?)
「根本的なことから確認するけど……イチカちゃん、戦争の勝敗ってどうしたら決まるかは知っているよね?」
「はい! 敵の兵隊を全滅させれば勝利です!!」
 一見正しいようで、この世界においてはありえないことを胸を張りイチカが断言する。
「はい、外れ。戦争の勝利条件は、相手の城を壊すこと。続いて質問、相手の城を壊す手段はなんでしょう」
「はい! 城まで突っ込んで言って殴って壊します!!」
 一度の失敗にもめげず、清々しいまでの即答。元教育係のラドラスがマグナに殴り飛ばされている辺り、答えの妥当性は言わずもがなと言うべきだろう。
「手段の1つではあるけど……それは最後の手段ってところかな。相手の城を壊す手段は大きくわけて3つ。1つ.オベリスクの建設。2つ.相手のオベリスクの破壊。3つ.敵兵の撃破」
 ピンと指を立て順番に説明を行うシャクナに、率直な疑問をぶつける。
「あの〜シャクナさん、根本的なことえっ、え〜と……どうしてそれで、相手の城を壊すことができるんですか?」
「良い質問だね。そもそも城ってのは、クリスタル収集装置の一種でね、周囲のクリスタルエネルギーを集める力を持っている。城自身、その存在の維持に莫大な量のエネルギーを消費するけど、通常時は周囲から集めるエネルギーの量の方が大きいから問題はない。けど、戦争が始まって、同じ戦場に複数の城が作られると、集めるエネルギーの量が減りその存在が維持できず、時間とともに城が壊れて行く」
「そ、そうなんですか〜〜」
「オベリスクは城が持つクリスタルの召集する力を増幅する力を持っていてね。オベリスクの周囲のエネルギーを城へ誘導できるんだ。その結果、相手の城が集めるエネルギーの総量が減り、城が壊れる速度が上がる。ただ、オベリスクが壊れた時に、集めた量のクリスタルの力が暴発してしまい、城の一部が壊れてしまうっていう欠点もある」
「すごいですね〜〜」
「……イチカちゃん、俺の説明、全然理解していないよね」
「うっ……」
 突き刺ささるような冷たい視線に、熱暴走仕掛けていたイチカの頭が一瞬でクールダウンする。
「えと……その……と、とにかく! オベリスクっていうのは凄いってことですよね!!」
「今はまあそれでいいけど、この戦いの後、補習するから、覚悟しておいてね」
「そんな〜〜」
 イチカなりに最大限に簡潔、かつ明確な回答のはずが、笑顔で却下され、崩れ落ちる。
 戦場であることを忘れさせるような呑気なやりとりを続ける2人。
 だが、例えこの場に敵がいなくともここが戦場であり、今が戦争の真っ最中であることには変わらない。
「……遅いな」
「そうッスね、こりゃあ一っ走り行くべきッスかね?」
「でも、私達のことは伝えてあるんでしょう?」
 勉強を続ける2人とは大クリスタルを挟んで反対側、先ほどまでの和やかな雰囲気とは裏腹に深刻な表情を付き合わせる3人。
 戦争開始からかなりの時間が経過しており、打ち合わせでは今頃、彼らが採掘したクリスタルを回収するための輸送部隊が到着する手はずになっていたが、それがまだ到着していなかった。
「姐さん、城からはまだ何の連絡もないんスか?」
「さっきから何度かこちらの状況を知らせてはいるんだけど……何の連絡も返って来てないわね」
 言い、耳障りな雑音のみを垂れ流す無線機を掲げる。
 兵隊1人1人に支給され、戦場の端から端にまで声を届かせることができる高性能な無線機、通信の妨害はもちろん、故障や無線の範囲外になることは、まずありえないとされている。
「こりゃ……城の方で何かあったのかもしれねぇな」
「何かって……何スか?」
 訴えるような疑問、だが、その疑問への答えはない。
 無線での連絡も取れないような何か、誰かが答えるまでもなく、それが良くないことだけは簡単に推測できた。
「あれ!? シャクナさん、アレなんですか?」
 不意に勉強を続けていたはずのイチカが、戦場の一点を指さし声を上げる。
 真っ直ぐにイチカ達のいる丘に向かい突き進む謎の影。その影は人影と呼ぶには少々大き過ぎ、そして、歪だった。
 影は周囲に立ち並ぶ木と同程度の高さを持ち、一見人型に見えるが、その足は4本存在していた。
「あれは……ナイトじゃねぇッスか!! やっと来たみたいッスよ、親方!」
 段差を飛び越え近づいてくる影に、ラドラスが歓喜の声を上げ、大きく手を振る。
 ナイト――クリスタルの力を使い召喚される異界の騎兵。
 圧倒的な機動力と、巨大な体躯に見合った巨大なランスを持ち、戦場では、同じく異界より召喚されるレイスや、ドラゴン等への対抗手段や、クリスタルを始めとする物資の輸送手段として利用される。
「うわ〜〜、おっきい……あれがナイトなんだぁ……」
 最後の跳躍、
 崖下から力強く跳び上がったナイトが、青い甲冑を輝かせイチカ達の前に降り立――
「違う! 離れろ、お前ら! そいつは敵だ!!」
 「ふぇ?」、「へ?」、ナイトに駆け寄ろうとした2人が振り向き、返す、二つの返事。その2人の後ろから、
「大正解」
 いななき、大きく伸びあがる馬、それに跨る巨人が巨大なランスを突き出した。
「ディバインスラスト!」
 ランスから放たれた錐状の衝撃波が、2人の間をすり抜け、大地を削り取る。
「びっくりしたかい? いくらボクでも、ナイトのランスで串刺しなんて酷いことはしないよ」
「てめぇ……その声は、ザンザスか!」
 腰を抜かしその場にへたり込んだイチカを庇い、マグナがナイトの間に割り込む。
「その通り、ボクこそワイルドライダーズの隊長、ザンザスさ。けれど相変わらずだね、マグナ。こんな所でクリスタル集めかい?」
「当然だろ? それが俺達の仕事だからな。で、ナイト様1人で突っ込んでくるたぁ、いい度胸じゃねぇか」
 両手の手甲を打ち鳴らし身構えるマグナ、それに呼応しシャクナ達もザンザスの退路を塞ぐように回り込み、包囲する。
「偵察のつもりだったんだけどね、見知った顔を見つけたから、警告に来てあげたのさ」
「警告だと?」
「前線がこちらに流れていることに気付いてないのかい? もうすぐ、決壊するよ」
「そうかい、忠告ありがと……」
 怒りを押し殺すかのような低い声、吸い込む息と共に、体内で膨らんだ気が拳へと伝わり、光を放つ。
 臨戦態勢へと移行するマグナに対し、ザンザスは尚も余裕の笑みを浮かべ見下ろし、左手を挙げ、
「……よ! ゲイザースマッシュ!」
「パニッシングストライク!」
 甲高い音とともに、虚空より声が響く。
 弾かれたように飛びだしたマグナを追い、ヌルリと何もない空間から影――ハイドのスキルにより接近していたスカウトが飛び出す。
 影は硬く握られた短剣をマグナへと振り下ろす、
「させねぇッスよ!! ホーネットスティング!」
 振り下ろされた刃を、腕を突き出し体ごと割り込んだラドラスの硬い手甲が受け止め、弾き飛ばす。
「くっ、邪魔をするな!」
「おっと、それは……」
「わざわざハイドまでして回り込んだ、貴方に対して私達が言う台詞だと思うんだけど〜?」
 必殺の一撃を防がれ、距離を取ろうと飛び退るスカウトを、シャクナとセリニャが追撃する。
「なんだ、バレていたかい。彼も使えないねぇ。仕方ない、それじゃあボクはこれで退散させてもらうよ」
 マグナの全力の一撃を受けながらも、笑顔を浮かべ、漂々と奇襲の失敗したことを惜しむ言葉を残し、崖下へと跳び退る。
「ちっ、逃げやがったか……」
 苦い表情を浮かべ毒づく。
 マグナ自身、召喚獣とまともに戦えるのは、同じ召喚獣のみということは十分に分かっているが、それでも自慢の一撃を受けて平然としていられては傷つく物がある。
「おい、いつまで腰を抜かしてんだ、イチカ!」
「あっ、ご、ごめんなさい」
 謝りながら立ち上がろうとするが、上手くいかず何度も失敗する。
 ようやくイチカが立ち上がれるようになるまで回復したのは、スカウトを追撃しに行った2人が戻って来た時だった。


 敵味方、何十もの兵が入り乱れ、自軍の勝利という目的のため、東西南北駆け巡り奔走する戦場。
 そんな戦場を、イチカは今、たった1人で走り続けていた。
(今度こそ……今度こそ、絶対に活躍してみせるんだから!)
 足元を飛び散る水しぶきで裾を濡らしながら、イチカはさらに足を速める。
(戦えないっていうのは少し悔しいけど……みんなのためにも頑張らなくちゃ。)
 ずっしりとクリスタルが詰まったリュック。それを城まで届けること、それが今のイチカに託された任務だった。


「えぇ!! それ、どういうことですか! 私だけ、逃げろって言うんですか!?」
「誰がいつ逃げろって言ったんだ? このクリスタルを城まで運んで来いって言ったんだよ」
「同じですよ!」
 呆れた表情を浮かべるマグナに、イチカが顔を真っ赤にして食い下がる。
「隊長達は、ここに残って戦うんですよね。なのに、なんで私だけ逃げないといけないんですか!!」
 敵の偵察を撃破したとはいえ、依然として城とは連絡が取れない状況に合った。
 そんな中、敵からとはいえ、入手した唯一の情報は、前線が崩れもうじき敵が押し寄せるだろうということ。
 もしその情報が本当であれば、オベリスクを守るため自分達が敵を迎え撃つ必要がある。とはいえ、いつまでも採掘したクリスタルを余らせておくわけにもいかない、城から輸送部隊が送られてくる気配がない以上、誰かが城まで届ける必要があった。
「そんなに、はっきりと理由を言って欲しいのか?」
「うっ……」
 覗きこむような半眼に、イチカは思わず息をのみ後ずさる。
 正直なところ、イチカ自身も自分が除外された理由は十分に理解していた。ただ、それを素直に認めることはできない。
 そんなイチカを庇うようにラドラスが間に割り込み、
「もう十分ッスよ、親方。イチカが半人前で戦場じゃ役に立たないなんて分かり切ってたことじゃないっスか!?」
 バッサリとトドメを刺した。
「確かにイチカは、ドジで猪突猛進で、ワガママで不器用な上に考えしって言うか、ズバリ、バカっスよ。取り得と言えば頑丈なところぐらいッス。でも俺の可愛い妹なんスよ! だから、このままここにいても足手まといだなんてハッキリ言っちゃダメっすよ!!」
「あっちゃ……」
「言っちゃった……」
 崩れ落ち地面に這いつくばるイチカに欠片も気付かず、熱弁を振るい続ける。
「おぉ……おぉ……おお……」
「どうしたッスか、イチカ? まさか、さっきの戦いで怪我でもしたんじゃ……」
「ドジとかバカだとか……お兄ちゃんだけには言われたくないわよぉぉ!!」
「ぬわぁぁぁぁッスよぉぉ!!」
 立ち上がりざま、不用意に近づいたきたラドラスをぶっ飛ばすも、すぐにまた崩れ落ちる。
「あぁ……まあ、つまりそう言うことだ。一応念を押しておくが、部隊長命令だからな。お前に拒否権はねぇぞ。分かったな」
「はぁ……い」


(完璧にこの任務をこなして、名誉挽回してみせるんだから! あぁ、もう、今思い出してもやっぱり腹が立つ。)
 親の敵か何かの如く取り出したマップを睨み付けるように凝視し、目印と現在地を確認する。
(あれが……目印の滝だから……うん、ここから南に行けばいいんですね。)
 敵の侵攻に備え、大クリスタルのある丘から真っ直ぐ城に進むのではなく、北に大きく迂回し進むように指示を受けていた。
 その目印として滝を目指すように指示を受けていたのだが、イチカは2つ程大事なことを失念していた。
 1つ、このクローディア水源には北に1つ、中央に2つ、南に1つと複数ヶ所に滝が存在していること。
 2つ、自分が極度の方向音痴であること。
(順調順調、全く、みんな私のこと見くびり過ぎだよ。そりゃあ、あの時はいきなりだったから驚いちゃったけど……私の実力はあんなもんじゃないんだから! 次、敵が出てきた時は、私の手甲でぶっとばしてやるんだから!)
 決意を新たにしたイチカは素早くマップを仕舞い込み、滝沿いの道を走り出した。
 目的地のはずの自軍の城に背を向け、戦場の真っただ中へと。


 無数の雷と矢が雨の如く降り注ぐ。
 氷が弾け、吹雪が生まれかと思えば、次の瞬間には炎が弾ける。
 銃声と雄たけびが響き渡る中、剣と斧が交差する。
 油断すれば、足を止めれば、降り注ぐ矢や雷に、飛び交う炎や氷に、高く響く剣風につかまり命を落とす戦場。
 そんな戦場に、場違いなまでに真新しい防具と手甲を身に付けたセスタスを放り込めばどうなるかと言えば……
「こ、こないでぇぇぇ!!」
 降り注ぐ矢と爆風、吹雪を掻い潜り、イチカはただがむしゃらに走り続ける。
(な、なんで? なんでなんで? こんな所に敵がいるの? 待ち伏せ? 待ち伏せされたってこと? 誰か教えてよ〜〜!)
 正解は、道を間違えたイチカが敵軍の真ん中に飛び出しただけなのだが、当のイチカはそんなことを知る筈もなく、先ほどまでの威勢も忘れ去り、パニックを起こし逃げ回っていた。
「くそっ、なんなんだ、あのセスタスは、チョコマカとうっとうしい」
「はっ、どうせ手柄を焦って、こっそりオベリスクを狙おうとしたネズミ野郎だろ? さっさと追いつめてぶっ殺せばいいんだよ」
「だから貴方達は脳キンだと言うのですよ。囮かも知れませんね。近くにハイドが潜んでいる可能性もあります」
「なんだそりゃ? それは、さっきから見当外れの方向にばっか撃ちこんで、一発も当てられないことへの言いわけか?」
「うるさいですね。これは偏差撃ちという高等テクニックなのですよ!」
 また1つ、打ち出された火球がイチカの脇を通り過ぎる。
 魔術と言えど、撃った後敵に届くまでにはわずかなタイムラグが発生する。そのため、目標に向かって真っ直ぐに魔術を撃つのではなく、敵が避けるであろう地点を予想して撃つのが偏差撃ちと呼ばれるテクニックである。
 しかし、その高等テクニックも一直線に逃げる相手に対しては全くの無意味だった。
(このままじゃ、追いつかれちゃう。こ、こうなったら……一か八か、撃退するしかないよね!!)
 長い追いかけっこの末、先に音を上げたのはイチカの方だった。
(隊長直伝の必殺技! ゲイザースマッシュでやっつけてやるんだから!!)
 手甲の硬い感触を確かめ、勢い良く振り返る。
「やぁぁぁ!!」
 密集し合い、津波か何かのような勢いで迫ってくる敵の群れ、その先頭に立つウォリアーの分厚い鎧に向かい、イチカは拳を振り上げ、
「ご苦労さん、ほいっ、アームブレイク」
「ふぇ?」
 振り下ろした拳が虚しく空を切る。
 少し遅れ、空から落ちてきたイチカの手甲が、乾いた音を立て地面に突き刺さった。
「おまけだ、ヴォイドダークネス、レッグブレイク、パワーブレイクっと」
 たった今、ウォリアーの脇から忍び出てイチカの手甲を弾き飛ばしたスカウトが、眼つぶしを投げつけ、麻痺毒を仕込んだ短剣でイチカの腕と足を斬りつける。
「えっ? 前が! あっ、あれ? 足が上手く……」
 突然の暗闇と、痺れる手足に混乱し転倒するイチカ。
「たくっ、さんざん手間掛けさせてくれたよなぁ? で、覚悟はできてるんだろうなぁ?」
「ですね。もう逃がしませんよ」
 ウォリアーが斧を、ソーサラーが杖を、それぞれ自分の獲物を構え必殺の態勢に移る。
 そんな、敵に四方を包囲されるという絶体絶命の状況の中、
「や、やる気ですか! たとえ目が見えなくても、手足が上手く動かなくても、その上武器まで弾かれていても……って、これじゃあ! 何もできないじゃないですか! 卑怯ですよ!! 正々堂々と勝負してください!」
 相変わらず空気の読めないイチカの威勢のいい声が戦場に響き渡る。
「……なぁ、俺の技って卑怯なのか?」
「そうですね。卑怯と言えば卑怯ですが……って、落ち込まないで下さいよ」
「そっか、卑怯か……俺の技術ってけっこう難しいだけど……傍目から見たら卑怯に映るんだよなぁ……」
「いえ、卑怯というのは言葉のあやでして……」
「だあ! 何、アホなことやってんだよ、てめぇらは! めんどくせぇ!! とっとと、この女ぶっ殺して先急ぐぞ!」
 弛緩しきった戦場の空気を吹き飛ばし、ウォリアーが斧を高く振り上げる。
「手柄を焦って突出したことを後悔するんだな! ヘビース……」
「ブリザードカレス!」
 力任せに振り降ろされた斧の軌跡に白い光が割り込み、交差する。
 瞬間、圧縮された冷気が吹雪となり周囲を白く染め上げた。
「手柄を焦って突出し後悔するのは、貴方達の方でしたね?」
 光弾の主の言葉に、氷の中に封じ込められたウォリアーが歯ぎしりする。
 彼らはイチカを追いかけるのに夢中で、自分達が敵陣深くにまで侵入していることに気付いていなかった。
「やりなさい!」
 光弾の主が、杖を振り上げ合図を送る。
 それまでどこに隠れていたのか、ウォリアーやフェンサー、ソーサラーが飛びだし、氷像となった敵に襲いかかった。
(な、何が起こってるんですか!!)
 暗闇の中響く、金属音と爆音に巻き込まれないよう、通り過ぎる無数の足音に踏み潰されないよう、がむしゃらに戦場を転がり回る。
 ようやくイチカの視界が回復し立ち上がった頃には、既に戦闘は終結していた。
「た、助かったんですか?」
「助かったのではなく、私達が助けたのですよ、お嬢さん」
 安堵しへたり込んだイチカの頭上から、先ほどのソーサラーが顔を覗かせる。
「うわっ! あいたっ……」
 驚き反射的に飛びはねたイチカの後頭部が、背後に立っていたソーサラーの腹に突き刺さる。
「つぅ……」
「あっ、ご、ごめんなさい! だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫ですか? じゃ、ねぇだろ! 最近のガキは助けられた礼も言えねぇどころか、恩人に頭突きするのが礼儀なのか? おい、立てるか、レイフォン」
 あたふたするイチカを押し退け、金色の鎧をまとったウォリアーが、みぞおちへの奇襲にうずくまるソーサラー、レイフォンに手を差し伸べる。
「えぇ……すみません、ザッドさん。油断してしまいました」
「たくっ、しっかりしてくれよな。で、レイフォン、このガキどうするんだ?」
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!!」
 不機嫌そうなザッドの視線に、半泣きになりながらイチカが謝罪の言葉を繰り返す。
「そんなに謝らなくてもいいですよ。こちらも、不用意に声を掛けて驚かせてしまったようですしね。それで、見たところセスタスの方のようですが……どうしてこんな所に?」
「どうして……あっ、そうだった! 私、早くクリスタルを城に持ってかないといけないんだった! あの、ありがとうございました! それじゃあ、私はこれで……ぐぇっ……」
 礼を言い、慌てて走りだそうとした瞬間、ザックに襟元を掴まれ強引に引き戻される。
「おい。待てよ、ガキ」
「げほっ、けほっ……い、いきなり何するんですか!」
 睨み付けるザッドの瞳を真っ向から受け止め、抗議の声を返す。
「バレバレの嘘付いて逃げ出そうとするからだろうが。てめぇ……まさかスパイじゃねぇだろうな?」
「す、スパイって……違いますよ! なんで私がスパイなんですか!? それと、私がいつ嘘付いたって言うんですか! これでも私、正直者って評判なんですよ!」
「はっ、自分で自分のことを、正直者だとか言う奴は、ただのバカか嘘付きって相場が決まってんだよ」
「わ、私! バカじゃないです!」
「なら、スパイだな」
「なんでそうなるんですか!!」
「あん、なんだその手は? まさかこの俺とやろうとか身の程しらずなことを考えてんじゃねぇだろ……」
「ああ、もしかして!」
 睨み合う2人の険悪な空気を打ち払うように、レイフォンの手を打ち鳴らす音が大きく響く、
「貴方は、ディグクラッシャーのイチカちゃんですか?」
「えっ、そうですけど……」
「お前、こいつのこと知ってるのか?」
 突然名前を呼ばれ困惑するイチカに代わり、レイフォンの乱入にすっかり毒気を抜かれたザッドが質問を行う。
「分からないですか、ザッド。ほら、マグナさん部隊のラドラスさんの妹ですよ」
「あん……あのバカの……妹?」
 何かを思い出しながら、改めてザッドがイチカを凝視する。
「ん〜? なるほど……確かにセスタスだし……見た目もあのバカの話と一致するな…………お前、ラドラスの妹なのか?」
「……お兄ちゃんからどんな話を聞いているかしらないですけど……そのバカの妹で間違いないですよ」
 ザッドの問い掛けに、『見た目』の部分で、何故自分の胸に視線が行くのか問い詰めたい衝動に駆られながらも、笑顔を返す。
「ちっ、そうならそうと早く言えってんだよ。マグナさんとこの奴なら、スパイってのはありえねぇしな」
「ですね。すみませんね、イチカちゃん。ザッドも悪気があってしたわけではないので、許してあげてくれませんか?」
 そっぽを向くザッドに代わり、レイフォンがふかぶかと頭を下げる。
「そ、そんな! 私、ぜんぜん気にしてないですから。顔を上げてくださいよ」
「そうですか、ありがとうございます。イチカちゃんは、クリスタルを城に運んでいる途中なのですよね。頑張ってくださいね」
「は、はい! ありがとうございます! それじゃあ、私はこれで失礼します……ふぎゃっ!」
 改めて礼をイチカが言い走りだそうとした瞬間、ザッドに足を引っかけられ頭から地面に転倒する。
「な、何するんですか!! いい加減にしてくれないと本気で怒りますよ!」
「あのな、そりゃあ俺の台詞だ。お前は何処に行こうとしてんだよ」
 憤慨するイチカに対し、疲れ切った表情を浮かべるザッド。
「どこって、そんなの私達の城に決まってるじゃないですか!!」
「だよな。なら、逆方向だぞ、ガキ」
「はい?」
 しばらく後、ようやく自分が、脳内マップの予想地点とは見当外れの場所にいることを知ったイチカの叫びが戦場に大きく響き渡った。


「よ、ようやく着いた……こ、ここで良いんだよね?」
 疲労困憊といった様子で、イチカが目の前にそびえ立つ城を見上げる。
 あの後、ザッドに自分の方向音痴をさんざん笑われながらもレイフォンに実際の現在地と城の方向を教わり、ようやく今、城に辿りついたのであった。
「あ、あの〜! 誰かいますか!?」
「そんなに大きな声を出さなくても聞こえていますよ」
 辺りに響き渡るイチカの大声に、落ち着いた声が返される。
 静かに開かれた城門から、ローブをまとった女性、フーが歩み出る。
「話は聞いてます、貴方がイチカちゃんですね?」
「はい、クリスタルを運んで来ました!」
「頑張りましたね、お疲れ様です」
 ねぎらいの言葉を掛けるフーに続き、城の周りにいた兵隊も集まってくる。
「すまないな。敵の襲撃を受けて連絡も取れない状態になってしまっていたんだ」
「ありがとな、お嬢ちゃん。このクリスタルは大切に使わせてもらうぜ」
「たくっ、遅いんだよ、バカ」
(あれ? 何か今、すっごい聞き覚えのある声が聞こえたような……て言うか、この頭の手の感触、すっごく馴染みがあるような……)
 手荒い歓迎にのみ込まれ、もみくちゃにされる中、自分の頭を一際乱暴に撫でまわすごつい腕の先に視線を上げる。
「お前のことだから迷子にでもなってんじゃねぇかって心配しちまったぜ」
「でも、無事で良かったッスよ」
「全くだな。怪我とかしてないかい?」
「お帰りなさい、イチカちゃん」
 見上げるイチカの視線が、侵攻してくる敵を食い止めるため残ったはずのマグナ達の姿をしっかりと捉える。
「えっ……えぇぇ!! 隊長に、お兄ちゃん!? それにみんなも……ま、まさか幽霊!?」
「てめぇには俺の足が見えねぇのか、このバカっ娘が!? まあけど実際、逆召喚が後少し遅れたら死ぬところだったがな」
 指さし叫ぶイチカの頭を押さえつけ、ひれ伏させながらマグナが豪快に笑う。
「逆召喚……ですか?」
 押さえつける手を振りほどこうともがきながらも、好奇心を抑えきれず質問を行う。
「逆召喚って言うのは、クリスタルの力を使い、自分を自軍の城まで転送することよ」
 戦争による兵隊の消耗を恐れた国が、召喚術を応用し開発した秘術。
 この術のおかげで戦場での死者の数は激減したが、その結果、より戦いが激しさを増す長期化することになったのは皮肉としかいい用がない。
「えぇ! 隊長達ばっかりズルイですよ!! そんな便利な方法があるなら、私もその逆召喚で戻ってきたかったです!」
「いや、あのね……イチカちゃん。逆召喚は城の構成に必要なクリスタルエネルギーを消費しちゃうから。ギリギリの状況でしか使っちゃダメなんだけど……ほら、俺説明したよね? 敵の城を攻撃する3つ目の方法……」
 もっともではあるが、常識外れなイチカの批難の声に、周囲の兵隊から失笑を買う中、シャクナが恥ずかしそうに解説を行う。
「あ〜、あのバカ娘はいつものことだから放っておいてだ。これからどうするんだ、フー? 結構ヤバい状況なんだろ?」
 イチカを囲む喧騒からこっそりと抜けだしたマグナが、ひび割れ、煙を上げる自分達の城を見上げ、問い掛けた。
「はい、カウンターで中央はなんとか押し返しましたが……貴方達のいた北東側はまだ敵に制圧されています。援軍を送ってはいますが……あの辺りのオベリスクは時間の問題ですね。このままでは、城が崩壊するのも時間の問題かと思います」
 広げたマップに刻まれた、オベリスクを示す三角のマークに×をつけながらフーが淡々と戦況を説明する。
「中央の奴らの状況はどうなんだ? このまま、相手の陣後方のオベリスクをへし折ることはできねぇのか?」
「相手の主力はこちら側に来ているので可能だとは思いますが……おそらく、こちらの城が持たないかと」
「北の救援は手遅れ、南を襲うにも時間が足りないっと……こりゃあ、さっさとこの戦場を諦めて次に備えるのが賢明な判断ってところだわな」
 悲観的な台詞とは裏腹に、楽しそうな笑みを浮かべうそぶくマグナ。
「確かにそうですね……ですが、貴方の考えは違うようですが?」
「たりまえだろうが。いつでも全開全力、全速力が隊のモットーだからな。だいたい、あんたも同じ考えなんだろ?」
 マグナと同じかそれ以上に楽しそうな笑みを浮かべるフーに問い掛け、
『キマイラだろ(ですね)』
 示し合わせていたかのように同じ答えを言い合った。


 城の前にずらりと整列する兵隊を見下ろす、マグナが口を開く。
「戦況は劣勢だ。ぶっちゃけ、このままじゃ負ける。けど、このまま大人しく負けていいのか?」
 既に主力部隊は南へ侵攻し、遊撃部隊は北への援軍に回っていたため、整列している兵隊は城の守備隊とディグクラッシャーの隊員という戦場に展開している味方部隊の内、2割程。
「ああそうだ、その通りだ。このまま大人しく諦めてやるわけにはいかねぇよな? だから、今から俺達で、敵の城を強襲しぶっ壊す!!」
 一斉に沸き上がる歓声、それに負けないようにマグナがさらに声を張り上げ、天高く腕を突き上げる。
「いくぞ! 最終作戦発動だ! 出番だぞ、犬っころ! 召喚!!」
「召喚! ナイト出るッスよ」
「召喚、レイス」
「ジャイアント、召喚です」
 『召喚』の叫びに呼応し、クリスタルの光が爆発する。
 闇が、光が、虹が、世界を構成する全ての色が光となって戦場を白く染め上げ、次元の境を歪ませる。
 知覚することさえできない程の一瞬、空間が、次元が、法則が、全てが歪み混ざり合う一瞬。
「おっしゃああ! 出撃だ、いくぞ!!」
 怒声が光を吹き飛ばし、異形の怪物がその4本の足で大地を軋ませる。
 マグナが召喚したのは3本首の魔獣、キマイラ。
 キマイラの方向に続き、鋭い馬のいななきが響き渡る。
「親方、守りは任せるッスよ!」
 ラドラス、他3名が召喚した、4体のナイトがキマイラを守るように、陣形を組み周囲に展開する。
 その、5体の召喚獣の前方、けたたましい羽音を立て闇が割れる。
「なら、俺の役目は露払いって所かな」
 シャクナが召喚したのは、4対の黒い翼と巨大な大剣を持つ死霊、レイス。
 そして、旋風を巻き起こし突き進むレイスに、追走する2体の巨人。
「邪魔な建物は一掃しておかなくっちゃね」
 セリニャ、他1名が召喚した、両肩に大型のキャノン砲を担ぐ巨人、ジャイアント。
 一斉に召喚された総勢8体の怪物が、敵城を目指し進撃を開始した。


「……そうです。ですので、敵兵をなるべく引きつけて留めておいてください。頼みましたよ」
 最後の部隊に連絡を終えたフーが、無線を降ろし一息吐く。
 マグナ達に続き、守備隊の大半が出撃し城の周囲は先ほどまでの喧騒が嘘のように閑散としていた。
「…………」
「ど、どうかしましたか?」
 そんな閑散とした状況の中、ずっと無言で睨み付けるイチカに観念したフーが、恐る恐る声を掛けた。
「……なんで、なんで私が居残りなんですか!!!」
 それまでの沈黙が、まるでチャージ時間だったかのような絶叫。
「私も召喚したいです!! 戦いたいですよ!! なんで私だけ仲間外れなんですか!?」
「いえ、仲間外れというわけではなく……だって、イチカちゃん……今日が初めての戦争なんでしょ?」
「そうですよ! それがどうかしましたか!? それに、私聞いたことありあますよ。召喚は、レベルの低い人が率先してやるべきだって。なのに、どうしてこんなイジワルするんですか!? ナイトでいいですから、私にも召喚させて下さいよ!」
 召喚獣の強さには、呼び出した側の強さに依存しないため通常の戦場であればイチカの言うことにはなんの間違いもない。
 ただし、あくまでも強さに依存しないだけで、技量や経験という部分に関しては呼び出した側に大いに依存してしまう。
 こと、この最終作戦においては、それが大いに命取りになってしまう。
「そ、そうしてあげたいところなのですが……すみません、もうクリスタルがなくなってしまって……」
 理由の部分を隠し、事実のみを告げる。
 実際、イチカが輸送した分も含め、戦争の開始から貯蓄していた消費用のクリスタルは全て使い切ってしまっていた。
 そして、今からナイトの召喚に必要なクリスタルを集められる程の猶予は残されていなかった。
「むぅ……それなら、召喚は諦めます」
 不満げに頬を膨らませながらも諦めるイチカに、フーがほっとしたのも束の間、すぐに次の欲求を開始する。
「なら、召喚は無理でいいですから。私も前線に行く許可を下さい! 作戦の成功のためには、1人でも人が多い方がいいはずですよ!」
 予期せぬ正論に、フーが再び言葉を詰まらせる。
 1人より2人、2人より3人、数が多い方が有利であり、その証拠にフーとイチカ以外の全ての兵隊は、マグナ達と共に敵城を目指し侵攻している。
 とはいえ、未熟なイチカが前にでても、弾よけ程度の役にしか立たないのは明白だった。
「うぅ……やっぱり、私我慢できません! もういいです、フーさんが止めても、私行きますから!」
「あっ、待って下さい。きゃぁ……もう、わかりました、わかりましたから、少し待って下さい。行くならせめてこれを持って言って下さい!」
 走り出すイチカに、しがみ付くも引きずられながら必死に制止の言葉を繰り返す。
「やったぁ! 認めてくれるんですね!」
「はい、止めても無理そうですから」
 満面の笑みを浮かべるイチカに、絶望的なまでの筋力差に観念したフーがため息をつきながら、道具袋からオレンジ色の石を取り出した。
「なんですか? それは」
「お守りです。落とさないよう、しっかりと持っていて下さいね」
「はい、ありがとうございます。それじゃあ、行ってきます!」
 礼を言い一直線に掛け出して行くイチカを見つめながら、フーが疲れ切った表情を浮かべ、ポツリと呟く。
「はあ……若いっていいですねぇ……」


「くそっ! 邪魔すんじゃねぇよ! ブリザードブレス」
 咆哮と、氷山のような氷塊が宙を掛け、マグナに迫りくる敵を大地ごと凍らせる。
 目指すべき敵城を視界に捉えるも、厚い敵の守備隊を突破できずにいた。
「敵キマイラ発見!! 至急、援軍を! 座標は……」
「ギロチンソード!」
 援軍を要請する敵、その声が分厚い鉄塊のようなレイスの大剣により、強制的に中断させられる。
「邪魔なのよ、壊れなさい」
 轟音と共に打ち出された砲弾が、アロータワーの外壁を突き破り、支柱深く突き刺さる。
「クリスタルよ! アロータワー建設」
 崩壊し、崩れ落ちるアロータワーの残骸が光に包まれる。まるで、ビデオの逆回しのように残骸が持ち上がり、組み合わさって行く。
「あぁ〜もう、壊しても壊しても、もこもこって、しつこい男は嫌いなのに」
 再び戦場に矢を打ち出し始めたアロータワーに向かい、セリニャが砲弾を打ち込むが、硬い外壁に浅い傷を付け弾かれる。
「まさか、キマイラで突っ込んで来るなんてね。面白いじゃないか、マグナ」
 一直線にマグナに向かう、青いナイトに護衛のナイト部隊が反応する。
「悪いけど、君達と遊ぶのはボクの仕事じゃないんでね」
 跳躍、護衛のナイト部隊が突き出すランスを、遥かに超える高い跳躍。
 しかし、その跳躍さえも見越していたかのように、宙を裂き一本のランスがザンザスを捉えた。
「つぅ……」
「そう言わないで付き合って欲しいッスよ」
 空中で撃ち落とされながらも、しっかりと着地するザンザスに向かい、ラドラスがランスを突き付ける。
「その下品な声は、ラドラス君か。相変わらず君は、人の話を聞かない男だねぇ」
「親方には指一本だってふれさせねぇっスよ」
 一進一退の攻防が続く中、戦況はマグナ達のやや優勢と言えた。
「このままじゃ、まずいな。奴ら、持久戦で来やがったか」
 とはいえ、マグナ達の狙いは敵部隊を突破し、敵城まで辿りつくことである以上、2重の制限時間を抱えているマグナ達にはやや優勢程度では不十分なのであった。
 1つ目は、自城が耐えられる時間。
 2つ目は、キマイラの寿命。
 異世界の魔獣である他の召喚獣と違い、キマイラはこの世界に住む錬金術師が、生み出した人工生命体。
 その不安定な命は、クリスタルの力によって支えられており、時間と共にその体は崩壊し続けていた。
 このまま持久戦になれば、敵の城に辿りつくまでキマイラの命が持たない。
 かといって、不用意に飛び出し敵の集中砲火を浴びれば、キマイラといえど耐えきることはできない。
 戦況は彼らの優勢にも関わらず、マグナ達は絶体絶命の状況に追い込まれていた。
「シャクナ、予定より遠いが、アレで一気に突破するぞ」
「闇よ全てを覆い尽くせ! ダークミスト!」
 呪文と共に、レイスの足元から黒煙が噴き出し周囲を覆い尽くす。
 全ての光を吸収する闇よりもなお暗い暗黒の大気、他者の敵意に反応し視界を奪うレイスの秘術。
「おらおら! どきやがれ!」
 突然の暗闇に怯む敵を蹴散らし、一直線に敵城へと突き進む。
 乱立するアロータワー郡を突破し、残す障害は敵の守備隊のみ。
「怯むな! 敵は見えずとも消えたわけじゃない! 気配を頼りに敵を迎え撃て」
 熟練兵の怒号に。一瞬緩まった敵の攻撃が、また元の勢いを取り戻す。
 例え、姿が見えずとも大地を揺るがすキマイラの巨体は圧倒的なまでの存在感を放っていた。
「ここから先には進ませんよ、アイスジャベリン!」
 上官の怒声に我を取り戻した若いソーサラーが、感を頼りに迫りくる巨体に向かい杖を突き出す。
 一瞬の後、研ぎ澄ませた彼の聴覚が、自らが撃ち出した冷気の結晶が弾け、周囲の空気を巻き込み凍りつく音を捉える。
「上手いぞ、次は俺の番だ。シールドバッシュ」
 若いソーサラーが捉えたのと全く同じ音を捉えた熟練兵が、シールドを構え巨体に向かい突進し、
「ビッグステップ」
 ジャイアントの太い右足に蹴り飛ばされ、弾かれる。
「ざ〜んねん、隊長じゃなくてごめんね。でもね、こっちも必死なの」
 左足と地面を張り付ける氷を、力で強引に砕き割り、セリニャが敵守備隊への突撃を再開させる。マグナに向かう敵を少しでも自分に引きつけるために。
 乱立するアロータワー郡を突破した今、ジャイアントに残された役割は、キマイラの盾になることのみだった。
「くっ、小細工を……中心は、あそこか!」
 ダークミスドの効果範囲からいち早く退避したザンザスが、反転し、再び闇の中へと飛び込む。
 ダークミストの闇は術者を中心に球状に展開される。
 そのため、その術者を見つける一番簡単な方法は、一度闇の外へ出、外から中心へと突き進むことである。
「消えろ、亡者風情が!」
 一直線に突き出された巨大なランスが、レイスの胸に吸い込まれるように突き刺さり、突き破り、突き抜ける。
 一瞬後、心を震え竦ませる絶叫に闇が打ち払われる。
「シャクナ! 怯んじゃダメッすよ。後少しで敵城ッス! このまま、押し込むッスよ!」
 視界が戻り、マグナへと殺到する敵を足止めしながらラドラスが叫ぶ。
 8体いた召喚獣も、ラドラスとマグナを含め3体にまで数を減らし、兵隊も壊滅状態ではあったが、敵城は目前、あと数十歩の距離にまで迫っていた。
「くくっ! 甘いね、君達の切り札がダークミストであったように。こちらも万が一の切り札を用意していたのさ。ハイド部隊、アームブレイクだ」
「なんだと……」
 後方から響くザンザスの声に、キマイラの3つの顔、6の瞳が視線を周囲にさ迷わせる。
 揺らめく透明な影が3つ。
 左右、正面の3方向に1人ずつ、
「くそっ! クローインパクト」
 太い右前足が影を薙ぐ、弾かれ吹き飛んでいく2つの人影。
「もらったぁ! アーム……」
 死角となった左側の影が揺らめき、跳躍と共に色を取り戻す。
「……ブレイ……」
「あげません! ゲイザースマッシュ!」
 飛び出した新しい人影――イチカの拳が、影を捉え、迎撃する。
「イチカ!? なんでてめぇがここにいるんだよ!? てめぇは……」
「話は後ですよ、隊長。今は急がないといけないですよね」
「ぐっ……後で説教だからな」
 怒りの機先を制すイチカの笑みに、マグナは振り返ることを諦め、捨て台詞と共に敵城へと足を進める。
「さぁ、ここからは私が相手ですよ。一歩も先に行かせません!」
 突き進むマグナを背に、仁王立ちの構えを取るイチカ。
 マグナ達に遅れ出撃した彼女が戦場に辿りついたのは、丁度ダークミストが展開された時だった。
 例え未熟なイチカといえど、暗闇の中、召喚獣のみに集中する守備隊が相手であれば、無傷でマグナの元まで辿りつくことは容易であった。
 しかし、それが果たして幸運であったのか不運であるかは判断のしようがない。何故なら、その容易さが油断を生む温床となった。
「パニッシングストライク」
「ふぇ?」
 背後、それも耳元に囁きかけるような声。その声にイチカが振り返った時には、既に斬りつけられた後だった。
(私……今、斬られた? アレ……急に、足に力が……)
 混乱する思考の中、足を滑らせる彼女の背後から、マグナを追う敵城の防衛隊が押し寄せる。
「ヘル……」
 敵集団、先頭のソーサラーが彼女に向かい杖を振り上げる中、その両者の間にナイトが滑り込む、
「イチカは俺が守るッスよ!」
「……ファイア!!」
 詠唱を終え、ソーサラーが振り下ろした杖の先から、灼熱の業火が噴き出し、ランスを突き出すナイトをのみ込み、その背後のイチカをものみ込んだ。
「いいぞ。後はキマイラ1体だけだ! まだ間に合う、スカウト部隊は死んでもアームブレイクを成功させろ。城に近づけさせるな!」
 炎に包まれ、倒れる2人を残し、駆け抜けていく無数の足音。
 マグナは城まで、後十数歩の距離まで近づいていた。だが、既に護衛の姿はなく、敵の新手がいつ何処から現れるかわからない以上では、安心できる状況ではなかった。
(うそっ……これで、もう終わりなの? 嫌だ、これじゃあ私、何しにここに来たのか全然わからないじゃない。)
 薄れ行く意識の中、イチカが抱いたのは死への恐怖ではなく悔しさだった。
(嫌、嫌、嫌! まだ私何もしてない、役に立ってない。こんな終わりじゃ嫌!)
「……ならばどうするのだ?」
 不意に、どこからか響く謎の声が彼女に語りかける。
(どうするって……そんなのわかんないけど、とにかく嫌なの! もっと戦いたい! みんなの役に立ちたいの!!)
「……戦いを望むか? よかろう、ならば我が力を貸してやろう」
(へっ……力って?)
 始まりと同じく不意に声が途絶える。
(えっ……何これ……体が……)
 変化は一瞬、彼女が自らの変化を認識した時には全ての工程が完了していた。
 燃え続けるイチカの胸元で石が弾ける。フーに渡されたオレンジ色の石――ドラゴンソウルが。
 割れた石より吹き上がる炎が、彼女を焼く炎さえものみ込み、火柱を戦場に生み出した。
「くそっ、寄ってくんじゃねぇよ!」
 しつこくまとわりつくスカウトを振り払いながら毒づく。
 城までの距離は後5歩、なのに、その5歩が今のマグナには、遥か遠くに感じられた。
「アームブレ……」
「くそ、真に合え」
 短剣を手に右側から飛び込んで来る影に、振り払ったばかりの右足を引き戻し迎撃を試みる、だが、その必死の抵抗も真に合わないことは誰の目にも明白だった。
 迫りくるスカウトを為す術もなく睨み付けるマグナ。その視界が飛来した火球が生み出す爆炎で埋め尽くされる。
「これは……」
 火球は後方の火柱より、火柱から飛び出したドラゴンより放たれていた。
「隊長! よくわからないですけど、おっきくなっちゃいました!!」
 場違いなまでの明るい声と共に、次々とドラゴンが火球を吐き出し、周囲を焼き尽くす。
「……フーの野郎、やってくれるじゃねぇか……こりゃあ、何としても成功させねぇといけねぇとな」
 降り注ぐ火球が生み出す炎の海の中、足を踏み出しマグナが前進する。
 ドラゴンの炎に吹き飛ばされ、周囲のスカウトは既になく。マグナを阻む障害はもう、残されてはいない。
 4歩、
 3歩、
 2歩、
 1歩、
 0歩、
「これで終わりだ! ファイナルバースト!!」
 光が城を、戦場をのみ込む。
 光に遅れること数瞬、キマイラの最期の咆哮さえもかき消し、轟音が戦場中に響き渡った。


「おつかれ〜!! 乾杯!」
「かんぱ〜い!!」
 割れんばかりの勢いで叩きつけられたグラスが、中身を盛大にぶちまけ合う。
 月明かりとかがり火に照らされる戦場跡に、乾杯の言葉が絶え間なく繰り返される。
 城の崩壊により、この戦場での戦闘は既に終結しているにも関わらず、その大半の兵隊は戦場に残り続けていた。
 というのも、終わることなく続く戦乱戦争の影響により、彼らにとって戦争は日常の一部でしかなく、戦争の後は敵味方無礼講の宴会が開かれるのが習わしとなっていた。
「すみません、ディグクラッシャーの皆さん。戦いの時、色々と酷いこと言ってしまって」
「なぁに、気にすんなって。つか、ナイトの時は偉そうなくせに、なんで普段のお前はそんななんだ、ザンザスよ?」
「いえ、その……ナイトになると性格が変わるといいますか……」
 ぺこぺこと頭を下げるザンザスが、ディグクラッシャーのメンバー1人1人に酒を注いでいく。
「でも、さすがはマグナさんですね。最後のファイナルバースト、敵ながら見事でしたよ」
 マグナを称えるザンザスの言葉に呼応し、周囲からも次々と歓声が上がる。
 その歓声を上げる者の中には、最後までキマイラにまとわりついていたスカウトの姿もあった。
「そうか? そうだよな、俺もそう思うぜ。がっははっは!」
「笑ってる場合ですか!?」
 声援に対し豪快な笑いを返すマグナの姿に、ついに我慢の限界を迎えたイチカが立ち上がる。
「あんだ? 何怒ってんだ、お前は?」
「怒りますよ、怒らずにはいらないですよ! だって!!」
 イチカがそこで言葉を区切り、息を大きく吸い込んだ後、眼前にそびえ立つ城を指さしながら叫んだ、
「なんであの城がまだ残ってるんですか!」
「なんでって……ファイナルバーストに耐えきったからに決まってるじゃねぇか」
 錬金術により生み出された人工生命体であるキマイラが、自らの存在全てを爆弾に換え、周囲を吹き飛ばす最後の奥の手、ファイナルバースト。
 戦争終結直前、確かにファイナルバーストは発動し、敵城を直撃した。
 ただ、彼らにとっての誤算は想像以上に敵城の耐久力が残っていたことだった。
 滅びの光が治まった後、しばらくのち、あっさりと自軍の城が崩れ去り彼女達の軍は敗北してしまったのだった。
「納得いきませんよ! そんなのありですか! 私、これが初めての戦争だったんですよ!」
 突き付けられる現実を全力で拒否し、イチカが地団太を踏み続ける。
 その様子に周囲から笑いが生まれると、今度はイチカの怒りの矛先がそちらへと向かう。
 しばらくの間、その様子を眺めていたマグナが、唐突にイチカに声を掛ける。
「おい、イチカ。今日は楽しかったか?」
「ふぇっ?」
 余りに唐突な質問に怒りも吹き飛び茫然とする。しばらくの間、真剣な様子で何事か考えた後、
「はい、楽しかったです! また、戦争やりたいです」
 長かかった戦争の感想を笑顔で言い切った。


 END



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